ずばり、伊藤大海はエースですか?
じゃないっすね。
HTBのFFFFF(エフファイヴ)の取材で、一呼吸おいてからそう回答した伊藤投手は、入団から2年連続で二桁勝利をあげ、東京オリンピックでのマウンド度胸は、「追いロジン」という言葉と共に彼の代名詞となった。
2023年WBCではシーズン中とは異なるリリーフという場所でも、1本の安打、四死球も許さずに、確かに存在感を示した。
そんな伊藤投手が「(エース)じゃないっすね」と答えた真意とは。
- 理想とするエース像とはまだかけ離れている
- 物足りなさを感じる
- 先発したら完投したい
- 少しでも長いイニングで
先発完投型の絶対的エース。それが彼の求めるエース像と言えるだろう。
エースの条件
一般的に挙げられる定義には以下のものがある。
勝利数 | 15勝 |
勝率 | .600 |
奪三振 | 150個 |
防御率 | 2.50 |
完投数 | 10回 |
投球回数 | 200回 |
それではここまでの伊藤投手のシーズン終了時のキャリアハイと比較してみよう。
勝利数 | 10勝 | 2021年、2022年 |
勝率 | .526 | 2021年、2022年 |
奪三振 | 141個 | 2021年 |
防御率 | 2.90 | 2021年 |
完投数 | 3回 | 2023年 |
投球回数 | 155.2回 | 2022年 |
投手分業制の時代、完投数やイニング数は難しい部分はあるが、その他の数字だけを見るとあと2、3歩といったところだろうか。
しかしあくまで定義は定義。
かつて3度の三冠王に輝いた落合博満氏はこう語る。
※2023/8/6 NHKサンデースポーツより
- 連敗を止めてくれる
- 貯金をいくら増やしてくれるか
過去3年間の貯金実績はというと、
2021年 | 10勝 | 9敗 | 貯金1 |
2022年 | 10勝 | 9敗 | 貯金1 |
2023年 | 7勝 | 10敗 | 借金3 |
少し物足りなさを感じるところもあるだろう。
それでは伊藤投手の目標であり、ファイターズファンの誰もが認めるエース。
日米通算200勝を達成した生きる伝説に目を向けてみよう。
ダルビッシュ有
2007年〜2011年まで5年間開幕投手を務め上げた名実共に絶対的エース。
この5年間の実績を見ると、
2007年 | 15勝 | 5敗 | 貯金10 |
2008年 | 16勝 | 4敗 | 貯金12 |
2009年 | 15勝 | 5敗 | 貯金10 |
2010年 | 12勝 | 8敗 | 貯金4 |
2011年 | 18勝 | 6敗 | 貯金12 |
2010年こそ貯金4に留まったが、この年は最優秀防御率を獲得している。
調子が悪かった年ではないが、日ハム定期である打てない時代で勝ちがつかなかったのだろう。
この数年間はよく「先発がダルビッシュなら今日は勝ちか〜」と思ったものだ。
反面、2013年の楽天戦にて、先発田中将大投手の場合、「今日マー君だから厳しいな〜」と、数年を経てダルビッシュ無双期の相手チームの気持ちを感じさせられた。
ファンにこういった気持ちを抱かせるのもエースの姿と言えるだろう。
数字に目を戻すと、貯金2桁で着地している年は全年Aクラス入りしており、2007年と2009年はリーグ優勝を果たしている。
また、落合氏が語る連敗ストッパー。
連敗ストッパー
2009年から3連敗以上からをストップした先発投手を挙げてみよう。
2009年 | 多田野 数人 | 2回 |
2010年 | ボビー・ケッペル | 3回 |
2011年 | ダルビッシュ 有 | 2回 |
2012年 | ブライアン・ウルフ | 2回 |
2013年 | 木佐貫 洋 | 3回 |
2014年 | 上沢 直之、浦野 博司 | 2回 |
2015年 | 大谷 翔平 | 3回 |
2016年 | ルイス・メンドーサ | 1回 |
2017年 | 上沢 直之、加藤 貴之 | 2回 |
2018年 | 上原 健太 | 2回 |
2019年 | 上沢 直之、加藤 貴之 | 1回 |
2020年 | 上沢 直之 | 2回 |
2021年 | 池田 隆英 | 2回 |
2022年 | 伊藤 大海 | 2回 |
2023年 | 上沢 直之 | 2回 |
こう見ると上沢投手が際立っているが、もちろん連敗なんてなければないに越したことはないので、あくまで参考情報として。
ここまでの指標に、2024年前半戦までの伊藤投手を見てみよう。
伊藤大海の前半戦
勝利数 | 7勝 |
勝率 | .700 |
奪三振 | 85個 |
防御率 | 3.01 |
完投数 | 1回 |
投球回数 | 102.2回 |
連敗ストップ | 3回 |
数字だけで語ると、シーズンの折り返し地点としては及第点と言っても良いのではないだろうか。
では、今の調子をそのまま後半戦を戦った場合のシミュレーションと、エースと定義づけした実績との乖離を見てみよう。
勝利数 | 14勝 | -1 |
勝率 | .700 | +.100 |
奪三振 | 139個 | -11 |
防御率 | 3.01 | -0.51 |
完投数 | 1回 | -9回 |
投球回数 | 166回 | −34回 |
連敗ストップ | 3回 | ±0回 |
前半戦の実績を元とした試算なので、勝率、防御率は維持。
連敗ストップは算出しようがない為3のまま。
また、定義としては過去の連敗ストップ最大数と比較してみた。
特に勝利数においては大きなキャリアハイとなる。
当然勝負は時の運も関わってくるが、後半戦からの戦いがエースへの道の登竜門となることは間違いない。
真のエースへの船に乗り込んだ、伊藤大海の「大航海」はまだ始まったばかりだ。
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